「ティアソル、私は……」
言いかけた時、フィーナが止めた。
「リル様、お話の途中に申し訳ありません。リル様のお話を聞いてしまったら、もう戻れない気がして……。その前に、ティアソル様の配下として、ティアソル様に、今までのご報告をさせていただけませんでしょうか?きちんとけじめとして、お話させていただきたいのです」
リルは黙ってフィーナを見つめた。そして、ふっと息を吐いた。
「分かった。そう時間は残されていないと思うけれど、あなたとしては当然の事でしょう。ティアソルに、今までの報告を。私は待っています」
「ありがとうございます」
フィーナは、ティアソルと共に、同じ部屋の少し離れた場所に行った。
残されたリルは、ルクティースに話しかけた。
「ルクティース。あなたは、後悔はしてないと言ってたわよね」
「はい」
「ずっと神殿に入ってから、今のミネイの仕組みを壊す事ばかり考えてたの?」
ルクティースは、考え込んで言った。
「いえ。そうではありません。僕は、幼い頃からフィーナが好きで、フィーナと一生暮らすのだと、ずっと思っていました。そして、ティアソルがいたから、僕は能力者でないフィーナとでも結婚できるはずだったのです。家を継ぐ者は、相手は能力者でないとならないと言う決まりはありましたが、そうでない者は自由でしたから」
「それが、ティアソルが私と一緒になる事になって、状況が変化してしまった訳ね」
「そうです。自らに強い能力がある事を呪いました。正直ティアソルと違い、僕は外で駆け回るとかそういうのが好きだったので、神殿での暮らしは全く向いていませんでした。常に神秘的であるように、微笑みを浮かべ、穏やかである事を強制され、感情は常に抑えて……。もちろん神に対する勉強を怠る事は許されませんでした。いずれ神殿長になると決まっていましたから」
「そう……」
リルは、ルクティースの話を聞きながら、以前フィーナの意識を読んだ時の事を思い浮かべていた。
ルクティースは、活動的でやんちゃな少年のように見えた。それが……。
幼なじみであり、愛する相手と会っても、言葉すら交わす事が許されない世界。自分の性格に全く合わない事を強要される辛さとは、どんなものだろう?それも、ルクティースは、巻き込まれたようなものなのだ。
リル自身、今からミネイに戻ったら、どういう世界が待っているか分からないのだ。少なくとも、自分の好きなようにできる事などほとんどないに違いない。
それでも、リルは、そういう立場に生まれたのだから、本当は疑いも持つ事もなくその立場を全うできるはずだった。だが、今の自分に本当にそれができるのだろうか?
「それでも、フィーナがティアソルと共に神殿に来るようになってから、姿を見るだけで気持ちは安らぎました。ですが……。それと同時に、諦めていたはずの想いが募るのを止める事はできなくなって行ったのです。そして、リル様が見付かったと言う事で、ティアソル自ら迎えに行くと聞いた時、僕はもう我慢が限界に来てしまったのです」
ルクティースは、想い出すかのように深いため息をついた。
「軽々しく言う事ではないと思うけど、あなたの気持ち、分かるような気がする。多分、ミネイでずっと育って来たなら、分からなかったのだろうけど」
ルクティースは、微笑んで言った。
「僕は、そんなあなただからこそ、ミネイを変えられると思います。あなたが行方不明になって以来、ずっと命を狙われ続けても、あなたを待ち続けたティアソル……。そして自ら危険を顧みず、婚約者であるあなたを迎えに行くと言ったティアソルと、一般の人の感覚を持ったあなたなら、きっとミネイを良い国にしてくれると……」
リルは、そう言うルクティースを真っ直ぐに見つめて言った。
「今は何も分からないけど、苦しんで事を起こしたあなたの言葉、私は信じる。頑張るから」
「僕は、リル様がどういう決断をなさって、僕を罰せられるにしても、全て受け入れます。元々そういう覚悟をしていたと言うのもありますが、フィーナの気持ちを知る事ができたから、もう思い残す事もありませんし」
ルクティースは、悟りを得たかのようにさっぱりとした表情をしていた。
リルは、ルクティースを見ながら、微笑んだ。
「まあ、ティアソルとフィーナの話が終わってから、はっきりと話をするから」
「はい」
リルとルクティースの話が一段落した頃、ティアソルとフィーナも戻って来た。
「全てフィーナから聞いたよ。リル、辛い想いをさせたね。僕がもっとしっかりしていたら、ここまで君にさせる事もなかったのに……」
「いいえ。ちょうど良かったと言うと変だけど、私はずっとあなたに頼り切ってたようなものだから。あなたがいなくなって、私は本来こうあるべき姿に戻れたんだと思う」
ティアソルは、リルを愛おしそうに見つめた。
「では、リルの考えを聞こうか?」
リルは、うなずいて言った。
「私は、この二人をここに置いて行きたいと思ってるの」