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Author:天河 悠(あまかわ はるか)
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今まで完結したファンタジー小説「風の慟哭」、ラブストーリー「サンタへの願いは、白い約束」は、HPに載せています。
読んでいただければ、幸せです。

My HP〜Blue Fantasy〜

*大変お手数ですが、URLの頭にhを付けて下さいマセ

現在連載中の「星が瞬く夜に呼応する」・・・目次を作ってみました。

初めてお越しの方は、ここから飛んで最初から読んでいただけたら幸いです。



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「ティアソル、私は……」
 言いかけた時、フィーナが止めた。
「リル様、お話の途中に申し訳ありません。リル様のお話を聞いてしまったら、もう戻れない気がして……。その前に、ティアソル様の配下として、ティアソル様に、今までのご報告をさせていただけませんでしょうか?きちんとけじめとして、お話させていただきたいのです」
 リルは黙ってフィーナを見つめた。そして、ふっと息を吐いた。
「分かった。そう時間は残されていないと思うけれど、あなたとしては当然の事でしょう。ティアソルに、今までの報告を。私は待っています」
「ありがとうございます」
 フィーナは、ティアソルと共に、同じ部屋の少し離れた場所に行った。
 残されたリルは、ルクティースに話しかけた。
「ルクティース。あなたは、後悔はしてないと言ってたわよね」
「はい」
「ずっと神殿に入ってから、今のミネイの仕組みを壊す事ばかり考えてたの?」
 ルクティースは、考え込んで言った。
「いえ。そうではありません。僕は、幼い頃からフィーナが好きで、フィーナと一生暮らすのだと、ずっと思っていました。そして、ティアソルがいたから、僕は能力者でないフィーナとでも結婚できるはずだったのです。家を継ぐ者は、相手は能力者でないとならないと言う決まりはありましたが、そうでない者は自由でしたから」
「それが、ティアソルが私と一緒になる事になって、状況が変化してしまった訳ね」
「そうです。自らに強い能力がある事を呪いました。正直ティアソルと違い、僕は外で駆け回るとかそういうのが好きだったので、神殿での暮らしは全く向いていませんでした。常に神秘的であるように、微笑みを浮かべ、穏やかである事を強制され、感情は常に抑えて……。もちろん神に対する勉強を怠る事は許されませんでした。いずれ神殿長になると決まっていましたから」
「そう……」
 リルは、ルクティースの話を聞きながら、以前フィーナの意識を読んだ時の事を思い浮かべていた。
 ルクティースは、活動的でやんちゃな少年のように見えた。それが……。
 幼なじみであり、愛する相手と会っても、言葉すら交わす事が許されない世界。自分の性格に全く合わない事を強要される辛さとは、どんなものだろう?それも、ルクティースは、巻き込まれたようなものなのだ。
 リル自身、今からミネイに戻ったら、どういう世界が待っているか分からないのだ。少なくとも、自分の好きなようにできる事などほとんどないに違いない。
 それでも、リルは、そういう立場に生まれたのだから、本当は疑いも持つ事もなくその立場を全うできるはずだった。だが、今の自分に本当にそれができるのだろうか?
「それでも、フィーナがティアソルと共に神殿に来るようになってから、姿を見るだけで気持ちは安らぎました。ですが……。それと同時に、諦めていたはずの想いが募るのを止める事はできなくなって行ったのです。そして、リル様が見付かったと言う事で、ティアソル自ら迎えに行くと聞いた時、僕はもう我慢が限界に来てしまったのです」
 ルクティースは、想い出すかのように深いため息をついた。
「軽々しく言う事ではないと思うけど、あなたの気持ち、分かるような気がする。多分、ミネイでずっと育って来たなら、分からなかったのだろうけど」
 ルクティースは、微笑んで言った。
「僕は、そんなあなただからこそ、ミネイを変えられると思います。あなたが行方不明になって以来、ずっと命を狙われ続けても、あなたを待ち続けたティアソル……。そして自ら危険を顧みず、婚約者であるあなたを迎えに行くと言ったティアソルと、一般の人の感覚を持ったあなたなら、きっとミネイを良い国にしてくれると……」
 リルは、そう言うルクティースを真っ直ぐに見つめて言った。
「今は何も分からないけど、苦しんで事を起こしたあなたの言葉、私は信じる。頑張るから」
「僕は、リル様がどういう決断をなさって、僕を罰せられるにしても、全て受け入れます。元々そういう覚悟をしていたと言うのもありますが、フィーナの気持ちを知る事ができたから、もう思い残す事もありませんし」
 ルクティースは、悟りを得たかのようにさっぱりとした表情をしていた。
 リルは、ルクティースを見ながら、微笑んだ。
「まあ、ティアソルとフィーナの話が終わってから、はっきりと話をするから」
「はい」
 リルとルクティースの話が一段落した頃、ティアソルとフィーナも戻って来た。
「全てフィーナから聞いたよ。リル、辛い想いをさせたね。僕がもっとしっかりしていたら、ここまで君にさせる事もなかったのに……」
「いいえ。ちょうど良かったと言うと変だけど、私はずっとあなたに頼り切ってたようなものだから。あなたがいなくなって、私は本来こうあるべき姿に戻れたんだと思う」
 ティアソルは、リルを愛おしそうに見つめた。
「では、リルの考えを聞こうか?」
 リルは、うなずいて言った。
「私は、この二人をここに置いて行きたいと思ってるの」

連絡用

HPの掲示板を閉鎖しました。
このブログにも、メールフォーム付けてますが、どなたでも使えるかどうか分からないので、何か連絡とか感想とかいただける時には、コレにコメントとして付けていただけると幸いです。

お手数かけますが、よろしくお願い致します。
「しゃべらない方がいい」
 そう言うティアソルを遮るように、ルクティースは深いため息をついた後、言った。
「人はみんな……平等に……生きる権利がある……はず。生まれ落ちた……環境で……生き方を決められる……なんて……」
 咳き込んだルクティースの唇の端から血が流れる。
「僕は……、子供の頃からフィーナが好きだった。王政をなくしても……、僕がフィーナと生きる事は……できないでしょう……。でも……、僕のような……想いをする人が……二度と……現れなければいいと……思った。僕は例え……フィーナが僕の事を好きでなくっても……、せめて望みくらい持てる……生き方がしたかったんだよ」
 苦しい息の中でルクティースは語った。
 土気色になった顔をもってしても、ルクティースは美しかった。
「フィーナの側で死ねる……なんて、こんな……幸せな事はない。せめて……、ティアソル……あなたたちは幸せに……。フィーナ……、愛してる……」
 ルクティースは、優しい微笑みをたたえていた。
「ルクティース、死んではイヤ。私もあなたを……ずっとあなたが好きだった。幼い頃から。だから、話せなくても、顔だけでも見る事ができるように、王族の方々の護衛以外女人禁制の神殿に行くため、必死で腕を磨いて……」
「そうか……もしかしてと勝手に思ってたけど、フィーナの口から聞けるとうれし……い」
 ルクティースとフィーナの会話を黙って聞いていたリルが、そっとルクティースの側に歩み寄った。そして、ずっと眠らされていて状況が分からず、困惑して判断に困ってる様子の、心配そうなティアソルに向かって言った。
「ティアソル、ここの辺りから、今いる全ての者達に、外で控えて待つように伝えてくれる?」
 ティアソルにとっては、反逆者となっても、弟は弟なのだ。辛い立場のティアソルに対しても、大切な友人であるフィーナに対しても、リルはなんとかしなくてはと考えていた。
 なんとかできるとしたら、それは自分だけである事も、今のリルには分かっていた。
「ああ。それは構わないけど、どうする気?」
「今は話してる時間がないと思う。私は、ルクティースとフィーナをなんとかするから、お願い」
 ティアソルは、今まで自分が眠らされていた間に、リルが大きな変化を遂げたのを感じて、それ以上何も言わず、その部屋から出て行った。
「ルクティース、目をつぶって何も考えず、私に全てを委ねてくれる?きっと今の私なら、あなたを治せると思う。これからの事は、傷を治してから考えましょう。フィーナ、あなたも同時にやるから。二人共いい?」
「お願いします」
 フィーナが、懇願するような目で見つめながら答えた。ルクティースは、もうほとんど意識を失いつつあるようだった。
 リルは、自分の意識を最大限に集中させ、今度は人を癒すために、力を注ぎ続けた。
 集中していたリルには、どのくらいの時が経ったのか分からなかったが、ルクティースとフィーナに力を注ぎ続け、大丈夫だと感じた時、側にはティアソルが寄り添っていた。
「疲れただろう?二人が助かったのは、僕には分かる。本当にありがとう。リルには、僕が癒しの力を使うから、リルが何を考えているのか話してくれないか」
 ティアソルは、そう言って、リルに力を注ぎ始めた。
「私が何を考えてるか話す前に、ルクティースとフィーナに聞きたい事があるの」
 ルクティースとフィーナは、うなずいた。
「二人共、これから二人で生きて行きたいと、本気で思ってる?」
「二人でいられるなら、それがどういう状況であろうとも、受け入れます」
 ルクティースの言葉に、フィーナは、ルクティースの顔を見て、強くうなずいた。
「ティアソル、私がやろうと思ってる事は、次期女王としては失格なのかも知れないんだけど……」
「僕は、リルを信じているから。リルがやる事が罪であるとしても、僕も一緒に責任をとるよ」
「ありがとう」
 リルは、にっこりと微笑んだ。
「私は、ミネイの事は分からない。でも、ミネイであろうとここであろうと、人の幸せは守られるべきだと思う。まして、フィーナは私を今まで支えてくれた親友。そして、ルクティースは、こういう形でしか出会えなかったけど、ティアソルの弟であれば、私の弟になる人。二人を犠牲にして、私達が幸せになれるとは思えない。今まで、他に何人もの人達を犠牲にしたり、自らの手で人を殺めたりした私が偉そうに言える事ではないかもしれないのだけど」
「いいえ。リル様。あなたがなさった事は、望んでそうなった訳でも、なさりたくてなさった事でないのは、私が一番知っています。忘れようとして忘れられる事ではないのは、同じく人を殺めた事がある私には分かりますが、その事実は自分が今からずっと抱えて行かなくてはならないものです。それを、きっとあなたは抱えて、進んで行ける方。胸を張って女王としてミネイにお帰り下さい」
 フィーナが、リルをまっすぐに見て、そう言った。
「そうね……。一生、忘れずに、でももうそういう事が起きないように、進んで行くつもりよ。ミネイを、ティアソルと絶対いい国にしてみせるから。ね?ティアソル?」
「もちろん」
 ティアソルは、多くを語らず、その一言に全てを込めるように言った。
 その様子を黙って見ていたルクティースが口を開いた。
「リル様、兄上。自らが行った事は、後悔はしておりませんが、お二人を信じる事ができなかった事に対してお詫び申し上げます」
「いや。僕がこういう立場にならなければ、確かにおまえまで、こんな事を起こす事もなかったんだ。誰が悪いと言う事はないと思う。立場や育った環境などで、色々な考え方が生まれるのは当然の事なのだし。おまえが詫びる事はないよ。僕がもっとおまえの事を思いやってやれたら良かったんだ。フィーナへの想いも気づいていたのだから。フィーナのおまえへの想いも僕は知っていたのに、何もできなかったのは僕の無力さから来たものだし」
 リルは、兄弟の和解を見ていて、自分のやろうとしている事が間違いなく受け入れられると思い、口火を切った。
 切れた結界の中から、初めて見る男が現れた。
 リルの力を恐れている様子もない。
「フェルゼリア、ティアソルを見張っておくように命じたはず。ここはかまわず、戻りなさい」
 ルクティースが叱責する。
 現れた男に気を取られたのか、能力の限界が来ていたのか、ルクティースの集中がとぎれ、炎に包まれるように結界は消え去った。
 やはりルクティースは力を使いすぎたのだろう。今にも座り込みそうに肩で息をしている。
 フェルゼリアと呼ばれた男は、口元を歪め笑い、ルクティースやリルには目もくれずフィーナに向かって言った。
「フィーナ。おまえを待っていたんだ。もう、動けないようだな。ちょうどいい。ここで死んでもらおうか」
「フェルゼリア、何を言うのです。殺めるのは許していないはず」
 ルクティースは驚いたように、フェルゼリアをとがめる。
「ルクティース様、俺は、この女を殺すためにこの地球までやって来たのです。あなたも俺の恨みはご存知のはず。このチャンスを待っていたんです。おい、フィーナ。覚えているか、おまえが殺したセリスの事を」
 フェルゼリアは、ルクティースの言う事を聞くつもりはないようだった。
「セ……リ……ス……?」
 フィーナは、絞り出すような声で言った。傷からの出血で朦朧とした意識の中から、記憶を探っているようだった。
 そのフィーナに畳み掛けるように、フェルゼリアは続ける。
「神殿で王子を守るためと称して、女を殺しただろう」
 リルはこの話を、以前ティアソルから聞いた事があった。
「あれは、俺のたった一人の妹だったんだ。俺達兄妹は、能力者有利な世界の中、必死で生きて来たんだ。それを、何も殺すまでの事はなかったのに、おまえは……。俺は誓ったんだ。どんな事をしてもおまえを殺すとな。あの日から、ミネイの未来よりおまえの命をとる事が俺の生きがいになった。まともな状態では、おまえにかなうはずはないからな。待ったかいがあったよ」
「フェルゼリア!フィーナに手を出す事は許しません」
 ルクティースは必死でフェルゼリアを止めようとした。命令では止められそうにない。
 だが、もはや力を使うことはできそうになかった。
「ルクティース様、俺たちがここまでやれるようになったのは、あなたのおかげです。あなたには、感謝している。だから、命令にも従ってきました。だけど、こいつの事だけは口出しをしないで頂きましょう。こいつだけは許せないんだ。止めても無駄なことです」
 あまりにも、淡々と語るフェルゼリアの出方を図りかね、リルがどうすべきか迷っている一瞬の間に、フェルゼリアはフィーナに向かってナイフのような物を投げつけた。
 誰も何が起こったのかわからないくらいの早業だった。
「あっ!」
 リルは思わず顔をおおった。
 だがそのとき、どこにそんな力が残っていたのかルクティースが身を翻し、フィーナとフェルゼリアの間に入り、フィーナを自分の体でかばった。
 ナイフがルクティースの胸に突き刺さり、ルクティースの体が崩れ落ちた。
 それを見た瞬間、リルの感情は怒りにのみ支配された。
 リルの体を包む炎が大きく広がる。
「これ以上、手出しは許さない!」
 リルがフェルゼリアを指さしたとたん、炎がフェルゼリアに飛び、一瞬のうちに跡形もなく焼き尽くした。
 フェルゼリアは消滅した。それを見ても、リルの怒りは治まるはずもなかった。
「ティアソルはどこ?」
 リルは気を失う事も出来ず、恐怖に顔をひきつらせた能力者たちに、怒りの感情を隠そうともせず、命令口調で聞いた。
「あ、あちらに」
 ティアソルは奥に置いてあるソファに横たわっていた。
 眠らされているのか。
 リルは、ティアソルの無事を見つけほっとしたが、炎に包まれたままでは助け起こす事もできない。
 ティアソルの姿を見ても、爆発した心の中の怒りはおさまらなかった。もはや、何に対してこんなに怒りがこみ上げているのかさえわからなくなっていた。
 自分が抑えられない。怒りのまま、全てを焼き尽くしてしまいそうだった。
 人がいる限り争いがまだ続くのであれば、ここで全てを焼き尽くしてしまえばいい。もう、人の死など見たくない。
 いっそのこと私が全てを消滅してしまえば……と、リルの思考は滅びの方に向かっていた。
 初めて人を殺して混乱したリルの意識が、歯止めの効かない力となり暴走を始めようとしていた。
「パーン!」
 そのとき、ティアソルがくれたペンダントがリルの胸元ではじけ飛んだ。
 リオラーネの強い香りがリルを包む。
 くらっとしためまいがリルを襲った。リオラーネは、リルの暴走を止める力を持っていたようだった。
 リルはその場にぺたんと座り込んだ。
 不思議とリルの怒りは急速に納まり、それに従い炎も消え去った。
 もはや、敵の能力者たちもリルの本当の力を見て、逆らおうという気を失ったようだった。
 誰もリルの行く手を妨げる者はいない。
 リルは、ティアソルを抱き起こし、呼びかけた。
「ティアソル。私よ、リルよ。目を覚まして」
 リルは、ティアソルの頭の中に直接何度も呼びかけた。多分、ルクティースの力による眠りに違いない。それでも、今の力を取り戻したリルならば、ティアソルを目覚めさせる事が不可能であるはずがなかった。
 ティアソルは、うっすらと目を開けた。
「か……な……み……?」
「ティアソル、良かった。気がついたのね。気分は?」
「少し頭がふらついているけど、悪くない。長い夢から覚めたようだ。そうだ。ルクティース、フィーナは?」
「向こうにいるわ」
 リルは、視線で指し示した後、目を伏せた。
 ティアソルは、ある程度状況が判断できたのか、あわてて立ち上がろうとした。
 まだ、足元がふらついている。
「私につかまって」
 リルは、ティアソルを支えながら、ルクティースとフィーナの元へ向かった。
 フィーナは、あれだけの傷を負っているというのに、ルクティースの元へにじり寄りルクティースを抱き抱え、何とか助けようとしていた。
 ルクティースは、胸にナイフが突き刺さったままだった。
 リルには、心臓に達しているのかどうかは分からなかったが、ルクティースの顔色はいいとは決して言えなかった。
「ルクティース……。どうして?」
 ティアソルが尋ねる。それに答えたのは、フィーナだった。
「申し訳ありません。ルクティース様が私をかばって……」
「兄上……、私は……いえ、僕は、これが一番いい方法だと思って事を起こしたのです。後悔は……していない……」
 ルクティースが、苦しげな声でつぶやいた。
「ルクティース様」
 フィーナは、リルをかばって思わずリルの前に立ちはだかった。足がふらついている。
リルの想像以上に、足の出血がひどいのかもしれない。
 ルクティースは寂しげな瞳でフィーナに言った。
「フィーナ、話をするのは久しぶりだね。あなたがここに来ているのは知っていた。あなたたちを撹乱させて、何とかあなたとは戦かわずにいたかったけど、やはり兄上を捕らえた以上あなたがやって来ないわけはないよね。でも、もうこれ以上あなたでも無理だよ。今だって、立っているのがやっとでしょう。それだけやられていれば、例えあなたでももう動けないはず。王女は、まだ能力が戻ってないようだし……」
 ルクティースは、フィーナに対して話す時は、リルが知っている一般の青年の丁寧な言葉遣いと言うくらいの話し方だった。もしかしたら、唯一フィーナにだけそうなのかも知れなかったが。
 そして……。フィーナはルクティースが言った通り、もう動けそうになかった。
「あなたは、ティアソルの弟でありながら、どうしてこういう事をするの?」
 リルは自分を守ろうと無理をしているフィーナを制し、近くの壁まで連れて行った。
 フィーナをその壁にもたれかけさせ座らせながら、リルはルクティースに尋ねた。悲しみと怒りがリルの心の中で葛藤していた。
「アミアカル王女、あなたには何もわかっておられない。何の選択も許されていない者の苦しみや悲しみがどんなものなのか。ましてあなたは、王女として生まれたにも関わらず、シリアムのおかげで何も知らず、自分の思う道を歩いてこられた。私を含め、ミネイでは何の自由もない人が多すぎる。王政さえなかったら、私も神殿に入る必要はなかった」
 ルクティースは、悲しげにつぶやきフィーナを見た。
「王政さえなくなれば、兄上にしても王女、あなたにしても、自分の望んだ人と望んだ人生がおくれるのです」
「私は、確かにミネイの事はほとんど知らない。でも、ティアソルの事は、運命で定められていたような気がするの。彼を愛している。彼とならどういう人生でもおくれるわ。ティアソルと生きる事が、私の選んだ道なの。あなたの事は気の毒に思うけど、ティアソルが王になれば、いくらでも今までの事を変える事はできるはず。自分の兄でしょう。どうしてそれが信じて待てないの?」
 ルクティースは、寂しげに微笑んで言った。
「あなたは本当に何もわかっていない。全てそのままか、全て変えるかしかないのです。ミネイは、王の力一つで代われるほど若い国ではありません」
 ルクティースの表情には、絶望と疲れがみてとれた。
「もしそうだとしても、やってみる価値はあるわ。こういう急速な改革を試みてもうまくいくはずはない。たくさんの人の血を流し、犠牲者を増やすだけよ。そういう事は、この地球では繰り返し起こっている事なんだから。とにかく、ティアソルを返して。今の私には、あなたがどういう考えを持ってこういう事をしているのか、そんな事はどうでもいい。でも、自分の兄を利用して自分の主張を通そうとするのは許せないわ。ティアソルはどこなの?」
 リルの怒りが高じるに連れ、リルの髪はいつのまにか水色に変わり、紫の目は怒りに燃えていた。
「どうしてもわかってもらえそうにありませんね。私は自分の意志を貫いてみせる。兄上は渡しません」
 ルクティースはリルの力が戻りつつあるのに気付いて、戦うのを覚悟したようだった。
 ルクティースと能力者たちが、結界に包まれ姿が見えなくなった。
「あなたが張った結界なんて、私が破ってみせる」
 リルは、自分の中で何かが爆発するのを感じた。
「炎が……」
 不思議な事にリルの体から青白い炎が湧き出てきた。リルは青い炎に包まれ、守られているように見えた。
 リルの本当の力が戻ったのだ。
 リルの炎は、リルが指さしたルクティースが張った結界に向かって伸びて行った。
 けれど、建物に燃え移るような事はない。リルが無意識のうちに、炎をコントロールしているからなのかもしれない。
 ルクティースが結界を強化するため、目をつぶり集中している姿が、薄くなってきた結界の中に見える。
 いったん攻撃をやめていた能力者たちが、ルクティースに合わせてリルに向かってきた。
 能力者の体の回りを風が渦巻き、さっきの衝撃で割れた窓硝子の破片が舞い上がった。
 風と共に硝子の破片が、リルに向かって飛んでくる。リルは、フィーナの前に立ったままその場を動かず目をつぶり、念じた。
 ぼおっ!
 炎はリルの前で壁のようになり、すべての硝子の破片を吸収した。風も硝子も、リルには傷一つ負わせることもなく消え去った。
 炎には、水だと思ったのか、次の能力者の一人が水を呼んだ。どこからか、水がまるで生きているかのように現れた。水は、リルの炎を包んで消すつもりなのか、大きく広がり向かってきた。
「むだよ、そんな物で私の炎は消せやしない」
 リルは腕を大きく広げた。炎の壁が広がる。
 大量の水が、リルとフィーナを包んだ炎の壁に当たる。
 これだけの量の水が、これほどの勢いをつけてまともにぶつかれば、人間はとても生きていられるはずもないだろう。だが、リルの炎の壁はびくともしなかった。
 それどころか、水はことごとく一瞬のうちに蒸発してしまったのだ。
 リルは、炎の中で黙って立っていた。
 能力者たちは、あまりの力の差に逃げ腰になっていた。
「まだ、何かやってみる?私は、人を傷つけたくはないけど、まだやるのであれば黙っていないわ」
 リルは、自分の力が完全に戻った事を知った。
 能力者たちはあわてて結界の奥に逃げ込んだ。
「そんなところに逃げ込んでもむだよ」
 リルは、炎を結界に向けた。
 炎は、結界に穴を開けるかのように一点に集中して向かった。次第に炎はそこから広がり、霧のようなルクティースの結界は、炎の力で散って行きつつあった。
 ルクティースは、うっすらと額に汗を浮かべている。
 そんな時、ルクティースの必死の攻防をじゃまするように、「さすがに王女殿下の力は伝えられた通りですな」と言う声が聞こえた。

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